【社労士が解説】ライターが知っておきたい社会保険(健康保険と年金)の基本

日本では、いわゆる「国民皆保険・皆年金」の制度により、原則としてすべての国民がなんらかの公的医療保険および年金制度に加入することが義務づけられています(年金は20歳以上60歳未満の方が対象)。
ライターとして独立・開業した際、「社会保険はどうなるのか?」「健康保険や年金の手続きが分からない」といった疑問を抱える方も少なくありません。
そこで本記事では、特に健康保険と年金にフォーカスし、副業・フリーランス・法人設立といった働き方ごとに、社会保険がどのように適用されるのかを社会保険労務士の視点から解説します。
社会保険の基本を整理する

社会保険の仕組みを理解することは、ライターとして独立・開業するにあたって非常に重要です。まずは、社会保険の基本を整理しましょう。
社会保険って何が含まれるの?(基礎知識編)
「社会保険」は広義と狭義で意味が異なり、広義では以下の5つを総称する言葉です。
- 健康保険(医療保険)
- 年金保険(主に老後の年金)
- 介護保険(高齢・介護状態になったときの保障)
- 雇用保険(失業や育児休業などの保障)
- 労災保険(仕事中の事故・ケガに対する保障)
ただし、一般的には「健康保険」「年金保険(厚生年金、国民年金など)」「介護保険」を指し、「狭義の社会保険」を意味する言葉として用いられる傾向があります。
「社会保険=会社員向け」というイメージを持っている方が多いものの、実際にはフリーランスも含む国民全体を対象としたセーフティーネットです。
会社員は会社の指定する健康保険、厚生年金保険、介護保険となり、保険料を会社と折半します。一方、フリーランスは国民健康保険と国民年金(第1号被保険者)に加入し、保険料を全額自己負担します。
参考:厚生労働省「教えて!公的年金制度 公的年金制度はどのような仕組みなの?」
ライターの働き方で考える社会保険の違い

ライター業の場合、その働き方によって加入すべき社会保険は異なります。ここでライターの働き方別に、社会保険の違いをわかりやすく整理していきます。
会社員+副業ライターの場合
本業の会社で厚生年金保険と健康保険に加入している場合、副業ライターの所得は原則として、これらの社会保険の加入には影響しません。なぜなら、会社員は本業の給与に基づいて社会保険料が計算され、会社と折半で支払っているためです。
ただし、以下の点に注意しましょう。
- 副業所得が20万円を超える場合は確定申告が必要
- 所得税・住民税は増える可能性あり
- 副業の働き方によっては106万円の壁に該当する場合あり
(※2025年12月1日現在、106万円の賃金要件は撤廃されることが決定しています。ただし、具体的な施行時期は政令や行政の告知を確認するようにしてください)
副業所得が20万円を超えた場合、確定申告をしないと住民税の申告漏れとなり、追加徴収されることがあります。
フリーランスとしてライターメインで活動している場合
フリーランスとしてライター活動を始める場合、会社員時代の社会保険を脱退し、自分で以下の2つの社会保険に加入して保険料を全額納付します。
- 国民健康保険(国保):居住地の市区町村の窓口で加入手続きを行う
- 国民年金:市区町村の窓口や年金事務所で第1号被保険者としての加入手続きを行う
手続きを忘れると医療費が全額自己負担になったり、将来の年金受給額に影響が出たりするため、退職後速やかに手続きを行うようにしましょう。
家族の扶養に入っている場合も、フリーランスの所得が増えるとその扶養から外れるため、自分で国民健康保険と国民年金に加入する必要があります。(詳細は後述)
法人化した場合(個人事業主からステップアップ)
個人事業主が株式会社や合同会社などの法人を設立し、その法人が社会保険の「適用事業所」に該当する場合は、代表者ひとりの会社でも原則として健康保険と厚生年金に加入します。
この場合、医療保険は国民健康保険から法人の健康保険などの被用者保険に切り替わり、国民年金に上乗せされる形で厚生年金に加入します。これにより、将来的に受け取れる年金額のベースが上がるというメリットを得られる一方で、法人としての社会保険料の負担が発生する点がデメリットといえるでしょう。
また、社会保険料は役員報酬額によって大きく変わります。以下は「ひとり社長(代表取締役)」で、法人から毎月支払う役員報酬別にみた、個人負担分の社会保険料の目安です。
前提:
・年齢(ひとり社長):35歳
・東京都在住
・役員報酬額は前年度も同額
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役員報酬 (いわゆる月給) |
月あたり社会保険料の目安 (個人負担分) |
社会保険料の内訳 |
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30万円 |
4万2,315円 |
健康保険1万4,865円 +厚生年金2万7,450円 |
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50万円 |
7万0,525円 |
健康保険2万4,775円 +厚生年金4万5,750円 |
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100万円 |
10万8,034円 |
健康保険4万8,559円 +厚生年金5万9,475円 |
参考:全国健康保険協会「令和7年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」
個人事業主の場合、前年の所得に応じて計算された社会保険料を支払います。しかし、法人化すると保障が手厚くなる反面、毎月の保険料が固定費としてかかります。そのため、収支やキャッシュフローを踏まえたうえで、メリットとデメリットのバランスを見極めながら法人化を検討するとよいでしょう。
文芸美術国民健康保険とは?
ライターの社会保険について調べる過程で、「文芸美術国民健康保険」に加入するという選択肢があることを知った方もいるかも知れません。
文芸美術国民健康保険は、「文芸美術および著作活動に従事している個人事業主の方(小説家や画家等を職業として生業としている方)」が加入できる健康保険組合であり、一般の国民健康保険よりも保険料が割安になる場合があります。
ただし前提として、組合に加盟している団体に所属している必要があります。そのため、健康保険料だけで判断せず、団体に所属する条件や費用についても考慮して、比較検討することをおすすめします。
詳しくは、ホームページにてご確認ください。
意外と見落としがちな「扶養」と「手続き」

ここからは意外と見落としがちな、「扶養から外れるタイミング」と「社会保険の切り替え手続き」について確認しましょう。
扶養から外れるタイミングに注意!
これまで専業主婦(夫)として家族の健康保険の「扶養」に入っていた方でも、ライターとしての収入が増えると、扶養の対象外となる可能性があります。
- 税法上の扶養(配偶者控除・配偶者特別控除): 合計所得金額が58万円(給与収入なら123万円)や133万円を超えると、夫(妻)の税金上の負担が増える可能性がある
- 社会保険上の扶養(健康保険・国民年金第3号被保険者): 一般的に年間収入の見込みが130万円以上になった場合、夫(妻)の健康保険の扶養から外れる(60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は、年間収入180万円が基準)
「年収の見込み」は過去の収入だけでなく、今後の受注状況から判断されます。一年の途中で収入が増加し、一般的には130万円を超える見込みとなった時点で、夫(妻)の会社の健康保険組合に扶養から外れるための届け出が必要です。
ただし、健康保険組合によっては収入の見込みだけでなく、世帯の収入構成や生活実態などを総合的に考慮されることもあるようです。詳細は、被扶養者の健康保険組合に確認するようにしてください。
扶養から外れた場合は、速やかに「国民健康保険」と「国民年金(第1号被保険者)」に加入する手続きを行わなければなりません。
扶養から外れているにも関わらず、夫(妻)の健康保険組合の保険証で医療機関を受診してしまうと、後日、健康保険組合から「医療費全額(7〜10割相当額)」の返還を求められるといったトラブルが発生することもあるので注意しましょう。
参考:国税庁「No.1190 配偶者の所得がいくらまでなら配偶者控除が受けられるか」
まとめ

副業・フリーランスのライターもひとり社長の意識を持ち、自分の社会保険と年金について理解し、適切に手続きをすることが大切です。
慣れないうちは、「会社員のときと違うから不安…」と思うかもしれません。しかし、制度の内容と流れを押さえておけば、安心して働き続けられるでしょう。社会保険の加入先や手続きについて迷ったときは、前述のとおり、国民健康保険については居住地の自治体の窓口、年金保険については地域の年金事務所に相談すれば教えてもらえます。
また、公的制度や法律は変更される可能性があるので、定期的に情報をアップデートする習慣を持つことをおすすめします。
この記事を書いた人
セールスコピーライター 河野愛
大手メディアでSEO記事を中心に1,000記事以上の執筆を手掛け、丁寧なリサーチ力と文章の正確さで検索1位記事も多数。社会保険労務士やFPの資格を活かし、金融・保険、DXツール、M&Aコンサルなどの記事を執筆する中で、読者を契約・購入に導くための文章を感覚的に書くことに限界を感じる。
2024年、セールスコピーライターに師事し、マーケティングに基づく文章術を習得。現在は、お客様に商品・サービスの魅力を伝えきることを使命とし、売上アップを望む企業や起業家のLP制作を中心に活躍中。コンテンツディレクター/編集として、売上につながるコンテンツ制作にも携わる。
